先日、「走る力」についてのコラムを書きました。
きっかけは、メイが8/4~8/7に参加した4日間のバルサアカデミーキャンプ(トレーニング合宿)です。
キャンプでは普段とは違う環境、違う選手たちと一緒にプレーすることで、色々なものが見えました。
その中で、個人的にとても印象に残った選手がいました。初日にメイと一緒にトレーニングをしていたメイの1学年上の3年生の女子選手です。
その選手は最終的に、この夏、バルサアカデミーキャンプに参加した1,000人を超える参加者の中からMVP(今回は2名選出)に選ばれました。
オンザボール技術も高かったですが、私が特に印象に残ったのは、ボールを持っている時のプレーではありませんでした。
- パスを出した後にすぐ動く
- 次にボールを受けられる場所へ移動する
- ボールを持っていない時にもプレーし続ける
- 味方に声を出して要求する
- 攻守が切り替わった瞬間(トランジション)の反応も速い
「ずっとサッカーに関与している」
ように見えました。
そして、それはまさにメイに足りていない部分でもありました。
上手な選手を見ることで、初めて課題が見えることもある
サッカーをやっていると、
「もっとドリブルが上手くなってほしい」
「シュートを決められるようになってほしい」
「足が速くなってほしい」
など、分かりやすい課題には目が行きます。
一方で、
- パスを出した後にどうしているのか
- ボールが無い時に何をしているのか
- 自分のプレーが終わった後、次のプレーへ移れているのか
こういった部分は、意外と見えにくいです。
メイの場合もそうでした。
キャンプで改めて整理してみると、
- 首振り
- オフザボールの動き
- プレーの連続性
- プレーの継続性
- 声出し、要求、ジェスチャー
- トランジション時の反応
いくつかの課題が浮かびました。
でもよく考えてみると、これらは全部バラバラの課題ではありません。
例えばパスを出した後にその場で止まれば、次のスペースを探しません。
味方に要求する必要もありません。
周囲を見る必要性も下がります。
当然、次のプレーへの参加も遅れます。
反対に、
「パスを出した瞬間から次のプレーが始まっている」
という感覚が身につけば、
- 次の場所を見る
- 動く
- 要求する
- 受ける
- そして、また次のプレーを考える
一つの変化から、他の行動も連鎖して変わる可能性があります。
そこで作った「5マーカートレーニング」
そこで、土曜にマオがトレーニングをしている待機時間に、私とメイで新しいトレーニングを始めました。
特別な道具は必要ありません。ボールとマーカー5個だけです。

5個のマーカーを円状に並べます。
父である私は、円の中央。
メイは外側のマーカー付近からスタートします。
まずメイから中央へパス。
そして重要なのは、その後です。
パスを出したタイミングで、自分(メイ自身)が次にボールを受けたいマーカーを決めて移動する。
私は中央から、移動したメイへパスを返します。
そこから先は、あえて決めていません。
- もう一度中央へパスを出して、違う場所へ動いても良い
- その場で何回かパス交換しても良い
- ボールを受けて、自分で別のマーカーへドリブルしても良い
つまり、
「パス→右へ移動→パス→左へ移動」
という決められたパターン練習ではありません。
毎回、
「次にどうする?」
を本人が選びます。
目的は「パス&ゴー」ではない
この練習をパッと見ると、パス&ゴーの練習に見えるかもしれません。
でも、狙いは違います。
「パスを出したら必ず走る」ことを覚えるのが目的ではありません。
実際の試合では、パスを出した後に走らない方が良い場面もあります。
- その場に残る
- 少し下がる
- 横へ開く
- 味方との距離を取る
- 相手を引きつける
色々な答えがあります。
身につけたいのは、
「パスを出した後も、自分のプレーは終わっていない」
という感覚です。
だからこの練習でも、ずっと走り続ける必要は無いことにしています。
疲れてきたら、中央とのパス交換を続けても良い。
ドリブルしながら少し休んでも良い。
ただし、
「次はあそこで受ける」
と判断した時には、できるだけ速く動く。
そして、
「ヘイ!」
と大きい声を出す。
手でも要求する。
ただマーカーへ移動するのではなく、
「自分は次にここでボールを受けたい」
という意思を持って動くことを重要視しています。
驚いたのは、変化が出るまでの早さだった
この練習を始めて、最初の2日間。
1回20分ほどなので、合計しても40分程度です。
それでも、明らかな変化がありました。
もちろん、「40分で課題を克服した」という意味ではありません。
実際の試合で自然に出なければ、本当に身についたとは言えません。
数週間後にも同じ行動が出るのかも分かりません。
それでも、それまで
「パスを出す → 一度止まる」
だったものが、
「パスを出す → すぐ次を探す」
へと、かなり分かりやすく変化が生まれました。
この短期間での明らかな変化を目の前で見ていて、私としても明確に気づかされた事があります。
今まで、できなかったのではなく、
「そうする必要性に気づいていなかっただけ」
という事を。
子どもの課題は「能力不足」とは限らない
例えば、
- 強いキックが蹴れない
- ボールを思った場所へ止められない
- 速く走れない
こうした身体的・技術的な課題は、基本的にはある程度の時間が必要です。
でも、
「パスを出した後にもう一度動く」
「受ける前に周囲を見る」
「味方に要求する」
といったものは、能力そのものよりも、
認識や習慣の問題
であることがあります。
本人が、
「あ、ここでもプレーしないといけないんだ」
と気づく。
そして、その行動だけを分かりやすい環境で何十回も経験する。
それだけで、急に行動が変わることがある。
今回の5マーカートレーニングで一番感じたのは、そこです。
研究を見ても「どんな環境で練習するか」は重要
育成年代のトレーニング研究でも、単純に同じ動作を繰り返すだけではなく、選手自身が状況を見て判断する練習環境の重要性が指摘されています。
9〜11歳の育成年代を対象とした研究では、試合で必要となる意思決定は、実際の試合と似た構造を持つ練習の中で学んでいくことが重要とされています。技術だけを切り離した練習と、相手や味方が存在し判断を伴う練習は、役割が違うという考え方です。 (参照:PubMed)
また、10歳前後の選手を対象にした研究では、コーチが答えを教えるのではなく、「今何が見えた?」「他に何ができた?」と問いかけながらゲーム形式の練習を行うことで、パスやドリブルの意思決定に改善が見られています。 (参照:PubMed)
最近FIFA Training Centreで紹介されたU-10年代の育成でも、
「何が見える?」
「何ができる?」
「どの選択肢を選ぶ?」
という考え方が重視されています。
- 受ける前に周囲を見る
- 適切なタイミングで動く
- プレッシャーの中で選択する
選手自身が答えを探すトレーニングです。 (参照:FIFA Training Centre)
今回の5マーカートレーニングも、最初から完全な試合形式ではありません。
むしろかなり単純化しています。
ただ、
「パスをしたら次はここへ走りなさい」
と答えを決めず、
本人が次を選ぶ余地を残している。
ここは意識しています。
ただし、5マーカートレーニングだけでは足りない
当然ですが、実際のサッカーにはマーカーしか置いていない状況などありません。
相手がいます。
味方がいます。
スペースは常に変化します。
今空いていた場所が、1秒後には消えていることもあります。
ですので、5マーカーで動けるようになったからといって、それだけでオフザボールが上手くなるわけではありません。
研究でも、人数やルールなどの条件を変えたゲーム形式の練習によって、若年選手のパスの判断や実行が改善した例があります。 (参照:PubMed)
一方、その研究ではドリブルには同じ改善が見られませんでした。
これも面白いところです。
技術そのものを反復する時間と、その技術を試合の中で「いつ使うのか」を学ぶ時間。両方が必要です。
5マーカーも同じです。
まずは、
「パスの後にも次がある」
という動きを分かりやすい環境で反復する。
そして、その後に相手や味方を加えていく必要があります。
次は少しずつ練習を変えていく
今後は、この練習を少しずつ変える予定です。
例えば中央にいる私(父)が、身体の位置で一つのマーカーへのコースを消す。
そうすると、好きな場所へ動くのではなく、
「相手がここにいるから、違う場所へ動く」
という判断が必要になります。
さらにもう1人加えれば、
- 2対1
- 2対2
と実際のサッカーに近づけていくこともできます。
そしてもう一つ入れたいのが、
ボールを受ける前に周囲を見ること。
FIFAのトレーニング資料でも、受ける前のスキャンと、ボールを持っていない選手が常に動いてパスコースを作ることは繰り返し重視されています。 (FIFA Training Centre)
最終的には、
- 見る
- 考える
- 動く
- 要求する
- 受ける
- 判断する
- そして、また次へ。
そこまでが自然につながれば、この練習の役割は完了(敢えて続ける必要はない)となるかな、と考えています。
大切なのは「この練習を全員がやること」ではない
今回、この5マーカートレーニングを紹介しましたが、
FC MONOの子供たち全員に5マーカートレーニングをやってもらいたい
という事ではありません。
今回この練習を始めたのは、メイの課題が、
「パスを出した後の動き」
「オフザボール」
「プレーの連続性」
だったからです。
例えば、
1対1で仕掛けることに課題がある子なら、もっと1対1を経験した方が良いかもしれません。
ボールを扱うこと自体に苦労している子なら、まずはボールタッチを増やす方が良いかもしれません。
受ける前に全く周囲を見られていない子なら、スキャンを意識する練習の方が必要かもしれません。
そして、自信を持ってプレーできていない子なら、技術練習より先に、
「失敗しても大丈夫」
と思える環境が必要な場合もあります。
子供が違えば、課題も違う。
当然、必要な練習も違います。
だから大事なのは、
「どの練習が一番良いか」
を探すことではなく、
「今、この子には何が必要なのか」
を考えることなのだと思います。
たった一つの出来事が、成長のきっかけになることがある
今回のきっかけは、バルサキャンプでした。
もしあのキャンプに参加していなかったら。
初日にあの選手と一緒にトレーニングをしていなかったら。
その選手がMVPになるほど高いレベルでプレーしている姿を目の前で見ていなかったら。
メイの課題をここまで明確に認識していなかったかもしれませんし、間違いなくメイ自身がここまで自覚ができなかったと思います。
そして、5マーカートレーニングも始めていなかったと思います。
子供の成長って、ずっと同じ角度で右肩上がりに伸びるものではありませんよね。
しばらく変わらないように見えて、
- 何か一つの出来事がある
- 自分の課題に気づく
- 良い選手を見る
- コーチの一言が刺さる
- 今まで出来なかったことが、一度だけ上手くいく
そういう小さなきっかけを境に、急に、劇的にプレーが変わることがある。
今回の出来事を通じて、私が強烈に感じたのはそこでした。
子供には、まだ見えていない可能性がたくさんある
今回の変化が、この先どこまで定着するのかはまだ分かりません。
2日間で見えた変化が、一時的なものかもしれません。
実際の試合では、まだ元の癖が出続けることでしょう。
だから、
「成果が出ました」
で終わらせるつもりもありません。
むしろこれから、
実際のFC MONOやバルサアカデミーのトレーニング、試合の中でどう変わっていくのかを見ていく必要があります。
ただ、
短期間でも、人の行動はこんなに変わる可能性がある。
ということは、今回かなり実感しました。
これはメイだからという話ではありません。
FC MONOの子供たち全員に、それぞれまだ本人も周囲も気づいていない物凄い伸びしろがあります。
何がそのきっかけになるのかは分かりません。
- 大会かもしれない
- 一つの失敗かもしれない
- 上手な選手との出会いかもしれない
- コーチに言われた一言かもしれない
- 家でやった10分の練習かもしれない
大人にできることは、すぐに答えを決めてしまうことではなく、その子をよく見て、今どこで困っているのかを考え、必要なら少しだけ変化を加えてあげることなのかなと思います。
そして子供自身が、
「あ、これかもしれない」
と気づく瞬間を作る。
- たった一つの気づき
- たった一つの成功体験
- たった一つの出会い
それだけで、昨日までとは全く違うプレーを始めることがある。
育成年代の面白さは、そういうところにもあるのだな、と。
まだまだ子供たちには、自分たち自身も知らない可能性がたくさんある。
今回の出来事を通じて、改めてそんなことを感じました。
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